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東京高等裁判所 昭和29年(行ナ)1号 判決

原告 全国穀類工業協同組合

被告 特許庁長官

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は特許庁が同庁昭和二十八年抗告審判第九〇号事件につき同年十一月二十日になした審決を取消す、訴訟費用は被告の負担とする、との判決を求め、その請求の原因として、

(一)  原告は「KATEI」なるローマ文字を横書して成る商標につき昭和二十六年九月二十一日第四十七類穀菜類、種子、果物、穀粉、澱粉及びその製品(但し糊及びその類似品を除く)を指定商品(但し以上の指定商品は当初出願の際のものをその後昭和二十七年九月十一日附訂正書を以て右の通り訂正したものである)としてその登録を出願したところ、昭和二十七年十二月十三日に拒絶査定を受けたので、昭和二十八年一月十二日に特許庁に対し抗告審判請求をし、同事件は同庁昭和二十八年抗告審判第九〇号事件として審理され、同年十一月二十日右抗告審判請求は成り立たない旨の審決がなされ、その審決書謄本は同年十二月十二日原告に送達された。

審決はその理由として本件商標は特異性のない普通の書体で普通に使用される方法のアルフアベツト綴で「KATEI」の文字を横記して成るものであつて、「家庭」を表わすものであり、而も指定商品との関係に於ては取引者及び需要者をして家庭に於て使用される商品であることを容易に想起させるものであるから単に商品の用途を表示したものに外ならず、自他商品甄別の標識たる商標法第一条第二項所定の特別顕著性を具備しないものであるとした。

(二)  然しながら右商標に於ける「KATEI」の文字はゴジツク体風の書体であらわしたものであるが、取引者及び需要者の間では「家庭」は「Family」の語を以てあらわし、「KATEI」とあらわさないのが普通であつて、もし家庭に使用する商品の用途を示すならば「家庭的」又は「家庭用」とすべきであつて、このような表示をしない限り前記指定商品に関し本件商標が単に右商品の用途を普通の方法で表示したものとすべきではなく、従つて右商標は商標法第一条第二項所定の特別顕著性を具備するものと言わなければならない。

(三)  然らば審決が前記の通り本件商標が右特別顕著性を欠くものとしてその登録出願を排斥したのは失当であるから、原告はその取消を求める為本訴に及んだ。

と述べ、

被告の主張に対し家庭用の配給米につき「家庭用配給」なる語が用いられるのが普通であつて、「家庭配給」なる語が用いられることは普通はなく、仮に「家庭配給」なる語が用いられたとしても「家庭」の文字だけでは直ちに「家庭用」なる用途を示すものと解することはできない、と述べた。

(立証省略)

被告指定代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として、

請求原因事実中(一)の事実を認める。

本件商標は何等特異性のない普通の書体でアルフアベツト綴りで「KATEI」の文字を横記して成るものであり、世人が之を見た場合に直ちにそれが「家庭」をあらわしたものと思考するに至るべく、且このように思考するのが常識に適合している。この「家庭」の語を英語で表わせば「Home」であり、原告主張のように之を「Family」と表わすことは極めて異例に属する。而して米につき普通用いられる「業務配給」「家庭配給」の用語の例によつて見ても明らかな通り「家庭」の語は「家庭用」の意味に用いられることは極めて普通であつて、本件商標はその指定商品に用いた場合その用途を表示したものとなることは明らかであり、従つて自他商品甄別の標識たるべき特別顕著の要件を具備していないものと解するのを相当とする。然らば審決が本件商標登録出願を排斥したのは相当である。

と述べた。

(立証省略)

理由

請求原因事実中(一)の事実は被告の認めるところである。

成立に争のない甲第一号証によれば本件商標の「KATEI」の文字は極めて普通の活字体に近い書体を以て記されてあることが認められ、右文字は一見「カテイ」と読むことができ、且「カテイ」の称呼は最も普通に「家庭」を意味するものと解せられ、「KATEI」の文字から通常他の称呼及び観念が生ずるものとは認めることができない。而して本件商標の指定商品たる穀菜類等の多くは家庭用に供せられること当裁判所に顕著なるところであつて、之等商品に右「KATEI」の商標を使用するときは必然世人をして右商品が家庭用であることを聯想させるに至るものと認めるのが実験法則に合致するものと解さなければならない。然らば右商標はその指定商品の用途を表示したものと解するの外なく、従つて商標法第一条第二項所定の特別顕著性を欠くものと言わなければならない。

然らば審決が本件商標を以て右特別顕著性を具備しないものとしてその登録出願を排斥したのは相当であつて、原告の請求は理由のないものであるから、民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決した。

(裁判官 小堀保 原増司 高井常太郎)

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